2013年11月に開催された商店街のイベントをきっかけに、サービス化した「フォトセラ」。シエンアートがクロマキー合成ソフトを導入した直後、翌年1月には、中野区の成人式記念パーティーや、マラソン大会での記念撮影を担当することに。
いくつもの実践を経て、仲間たちとの試行錯誤を重ねながら、「フォトセラ」のサービスが少しずつ形づくられていった。
今回はサービス初期から携わっている2人のメンバーにも加わってもらい、当時のことを聞いた。
右)山本 奈月(フォトグラファー)
ユーザーの表情を引き出すライティングのスペシャリスト
左)曲沼 尚悟(クリエイティブ・ディレクター)
リアルな体験を追求するクリエイター
本当にサービスとして成り立つのか?
周囲の心配をよそに、続けられたチャレンジ
—— 初期の頃の「フォトセラ」はどのようなサービスだったのでしょう?
吉永 当時はまだ、ソフトで背景と人物をシンプルに合成するだけにとどまっていました。まだまだ、サービスとしてはテスト段階でしたね。
—— フォトグラファーの山本奈月さん、クリエイティブディレクターの曲沼尚悟さんは、当時をどのように振り返りますか?
山本 正直なところ私は、一番はじめに関わっていた時、「うーん、プリクラとどう違うんだ……?」と思っていたんです。撮影するのにライブビュー機能(ファインダーをのぞかず、デジタルカメラの画面を通して被写体を見ること)を使っていたので、フォトグラファーとして機械に撮らされている感があった。ライティング(照明の当て方)も面白くない。プロのカメラマンなら、もっといい写真撮れるのにと。
曲沼 みんな、ぜひイベントで使ってもらいたいと思っていたけど、具体的な企画として見えていなくて。BtoCサービスになるため参加者からお金をいただくことになるし、人手もそれなりにかかる。一般ユーザー向けのサービスとして売っていくには無理じゃない? これをどうサービス化するんだろう? と思っていました(笑)。
—— なるほど。そんな周囲の心配をよそに、吉永さんは手探りで「フォトセラ」のことを考え続けたわけですね。
吉永 そうですね。自分の写真への想いだけではじめたサービスでしたから、はじめの3年は、いつもの仕事である広告撮影の合間に開発を進めている状態でした。水面下で粛々と、少しずつアップデートしていくようなイメージでしたね。
じわじわと重ねられたアップデート
「QRコードのプリント」が、新たな道へのカギに
—— サービスを模索していく中で、ターニングポイントになったことはありますか?
吉永 当時は革新的だった機能を実装したことですね。
私たちはあくまで“カメラマンによる撮影の体験”にこだわり、その場で写真プリントを手渡ししていました。ただやはり「データが欲しい」というユーザーの方の声もあり、QRコードからデータをダウンロードできる機能を開発することにしたのです。
—— 確かに、データもあるとうれしいですね。ただ、今は世の中にウェブアルバムなどのサービスがいろいろありますよね。それらを活用しなかったのはなぜでしょう?
吉永 いろいろ試しましたが、既存サービスはどうしても使いづらさがあったので、私たちはできるだけ自社開発にこだわりたいと思ったんです。手伝ってくれるエンジニアを募集し、自社サーバーの中でオリジナルのシステムを作りました。
「フォトセラ」で写真を撮影すると、利用者には、合成された写真プリントとQRコードが印刷されたカードが手渡されます。そのQRコードを読み取れば、撮影した写真がすぐにダウンロードできる仕組みが、このときにできあがりました。今ではどのメーカーでもやっていることなので、付加価値として、撮影が終わってから30秒でプリントを手渡すというスピードにもこだわっています。
「クロマキー合成ができる会社を探している」
大手企業の広告案件で、可能性が広がった
—— 「フォトセラ」に実装された新しい機能が、どのような展開につながったのでしょうか?
吉永 QRコードのダウンロード機能がついた直後、ホームページを見たある広告代理店から、1本の電話が入ったんです。「イベント会場でクロマキー合成ができる会社を探しています」と。
—— クロマキー合成を扱っている撮影スタジオは多いのですか?
吉永 映像などで使用する、大規模で本格的なクロマキー合成スタジオはたくさんありますよ。ただコンパクトな設備のまま出張サービスが可能で、しかもワークフローを柔軟にカスタマイズできる会社は、実はそれほどないんです。
—— なるほど。コンパクトでフットワーク軽く対応ができるのは大きな強みなんですね。その代理店から相談を受けた企画は、どのようなものでしたか。
吉永 サッポロビール様の新商品販促イベントでの企画でした。この時の経験のおかげで、不安を抱えながら続けていた地道な努力が、確信へと変わりました。
(STORY #03へ続く)
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